紙漉き体験

2015年6月13日~14日の2日間、アイセック立教大学委員会の方々と埼玉県東秩父村にある手漉き和紙工房「紙工房たかの」にて紙漉き体験を行いました。
アイセックとは、海外インターンシップ事業を運営する学生団体です。
この企画は「海外研修生に日本文化を体験させてほしい」というアイセックメンバー・池田梨帆さんの依頼からはじまり、約半年の準備期間を経て実現しました。
日本の伝統的なものづくりを実体験として学ぶことで表面的ではない日本文化の本質に迫ろうと、立教大学のアイセックメンバー7名、海外研修生3名(ブルガリア人 1名、チュニジア人 1名、ドイツ人 1名)が参加しました。
参加者のレポートをご紹介します。

アイセック・ジャパン公式ウェブページ

英訳レポート Paper making experience (English)

 

 


体験の流れ

1日目

1. 楮の皮剥き
原料の楮の皮から黒皮を剥く。

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2. 塵取り
剥いだ皮に残ったちりをきれいな水の中で一つ一つ取り除く。

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3. 楮の乾燥
塵取りで濡れた楮を乾燥させる。

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4. 楮を煮て、叩解する
楮をソーダ灰で煮て柔らかくし、木の棒で叩いて繊維状にする。

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5. なぎなたビーターでさらに細かくする
これで一日目の工程は終了です。

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2日目

6. 紙を漉く
繊維状にした楮とトロロ葵の根の粘液「ねり」を水に入れてよくかき混ぜて漉く。
「ねり」を入れることで繊維と繊維がよく絡まり合う”流し漉き”ができる。
漉いた紙を紙床(しと)に重ねていく。

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7. 圧搾する
紙床(しと)をプレス機で脱水する。

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8. 紙を乾かす
熱した鉄板に1枚ずつ貼り付けて乾燥させる。

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9. 完成

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二枚の漉いた紙の間に装飾品を入れ、オリジナルデザインの紙も作りました。

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職人へのインタビュー

学生たちが鷹野さんにインタビューをしました。

― 過去に外国人に紙すきを教えたことはありますか?実際に教えてみてどうですか?

国の補助金でヨーロッパへ和紙の宣伝に行ったことがあります。現地の小学生が折り紙に興味を持ってくれたり、その評判はいいものでした。この文化を広めた先に新たなビジネスチャンスがあると思ったのです。これが外国人に教えた経験ですね。

 

― あなたにとって紙漉きとはどういうものですか?

私にとって紙漉きとは、自分の生きがい、とまではいかなくても挑戦できる分野ですね。紙は芸術作品と同じです。真剣に作ったときとそうでないときとでは使う人も違いが分かります。この紙は違う、この人が作った紙はやっぱり良い、と思われたいので日々真剣に挑戦しながら作っていきたいですね。

 

― 日本の伝統技術を継続していくにはどうしたらよいとお考えですか?

伝統技術の価値を知っていただくにはまず宣伝が大切ですね。私はより多くの人に和紙作りを知っていただき関心を持っていただくことが伝統技術を継続していく上で不可欠だと思っています。
また、日本伝統技術の分業体制については改善すべき点があると思います。
それは、和紙作りに関わる全工程の人に伝統技術に携わっているという自負を持っていただくことです。例えば、原料を採取している人はその原料がその先どうなるのかを知らない方が多いと聞きます。そのため各工程で、自分たちの仕事に価値を見出せていない方がいるかもしれません。これからは一枚の和紙を作るのに関わる全ての人にその工程のすべてを知ってもらい、みんなで伝統を守り継いでいきたいと私は考えています。

 

― 和紙の文化が世界に広まることについてどう思いますか?

ユネスコに登録されて世界的に知名度が上がり、世界に認められたことは素直に嬉しいですね。しかしこの和紙文化は今もなお衰退しつつあり、その原因は職人さんの数が減っているからです。和紙の需要と供給バランスが崩れ、需要の方が大幅に大きくなってしまいますが、かといって品質を下げたくありません。だからなんとか昔ながらの品質を保ちながら拡張していきたいですね。これからが本当の勝負です。

 


体験者感想

アレフ・ザヤニ(23) 出身:チュニジア

1300年前からも続く日本の紙漉きの伝統について学べたことは本当に良い経験だった。日本文化は本当に興味深いと思う。(職人さんの話を聞いて)この紙漉きの文化を残していくために多くの人が協力していくべきだと思う。他の地域や国から来た人がこのような経験をすることはとてもよいことだと思う。全体を通じて、とても印象的な経験だった。

 

フィリップ・チャールズ(27) 出身:ドイツ

紙漉き体験は興味深かったのと同時に大変な作業でもあった。特に日曜日の作業(=紙を漉く工程)が面白かった。紙漉きをはじめとする、伝統産業の跡継ぎ問題はドイツにもある。伝統的な仕事をやりたいと思う人がおらず、産業が廃れていく状態だ。この状況の打開のためには政府が(若い人)に伝統的な仕事を魅力的に見せる工夫をする必要があるかもしれない。

 

アイセック立教大学委員会1年 阿部まあさ

この紙漉き体験は私にとって、改めて日本の伝統技術の奥深さを学び、また自分が日本人でありながらいかに日本文化を知らなかったか、ということを思い知らされた体験となりました。日本人だけで今回のような体験に行くのではなく、海外の研修生たちと一緒に体験することによって、和紙作りのひとつひとつの工程の内容と意味が深く自分の中で理解され、時間が経っても忘れることなく心の中に残っています。紙漉きの工程を教わるごとに研修生に英語で説明するのがとても難しく、日本人だから頼りにされているのに思うように翻訳することができず申し訳ない気持ちでいっぱいでした。紙漉きそのものに関しては、最も楽しく、研修生たちも楽しんでいたのは最後の紙を漉く工程だったと思います。それまでの工程は、屈んだり細かいちりを取ったりと、ずっとやっていたら疲れるような作業が多く、そんな作業を職人さんは毎日こなしていることを思い畏敬の念を抱きました。ユネスコに日本の重要文化財として認定されたことを誇りに思い、より多くの日本人に紙漉きを体験してもらいたいし、海外の方々にもより知ってもらいたいな、と思いました。自然豊かな東秩父の和紙の里で和紙作りという体験ができて良かったです。貴重な体験をさせていただきありがとうございました。

 

アイセック立教大学委員会2年 池田梨帆

一番印象的だったことが、和紙を使って書かれた史料が何千年のときを経て、今残っているという話だった。自分の中で自然からできているものの方が、人工的なものより早く朽ちるという印象があったので、自然のものの方が強く、長く持つという事実に驚かされた。その中で、自然に由来するものの方が、品質がよく、長持ちするのに、現在、世の中で使われるものは大量生産させる人工物なのかということを考えさせられた。とても難しい問いではあるが、自分の中にある答えを二つ述べたい。1つ目は、私たちはモノの表面的な部分、表面的なファッション性にばかりとらわれ、そのモノについてあまりよく考えず購入しているのだと思う。2つ目に、私たちは日々の生活のなかで、モノが一から作られるプロセスを目の当たりにする機会がほとんどないため、モノの本当の価値について考えることがなくなっていると考える。
この2つ目に関して、今回紙漉き体験を通じて、身近にあるモノについて再考する機会となった。つまり、今回のような紙漉き体験を経験する人が増えることで、モノにについて考え直す人がすえるかもしれない。
また、次に強く感じたこととして、木の皮から紙をつくるということを考えた、昔の人の発想力だ。普段私自身、自然に触れる機会がない一方、昔の人は日々自然とともに生きていたということを実感した。それが故に、自然の木の皮という材料からものを記すための紙をつくるという発想が可能になったのだと考える。
また、職人さんの鷹野さんへのインタビューの中で特に印象的だった言葉がある。それは、紙をつくることは毎日が挑戦だというものだ。少しでも手を抜くと、それが紙にあらわれるため、一枚一枚に全力でなければいけないと言っていた。何十年も紙漉きを営んでいる鷹野さんでさえ、このように言うのだと知って、完璧を目指すことの難しさを感じた。視点を変えれば、人の手で行うことには限界があると言えるのかもしれない。機械やコンピューターを使えば、すべて同じ規格のものができる。しかしそうなった結果が、モノが作られる過程を知らず、使っては破棄する今の習慣につながっているのだろう。まとめると、本来モノは作る人の思いや苦労ののち、私たちがそれらを理解し、使うべきなのに、その制作の過程、ないしはその過程を利用者が知る過程がなくなっているが故に現在安いものが大量生産され、大量破棄されているのだと考える。
最後に、この体験を通じて、普段の大学生活では決して考えない、ものづくり、自然とのつながりについて考える機会を得た。普段持ちえない視点を得ることで、同じ問題に対しても新たな観点で考えることができるようになった。また、伝統産業の跡継ぎ問題、衰退は世界全体問題であるために、今後、アイセックを通じて海外の学生と活動していく中で、ここでの学びを活かしたい。

 

アイセック立教大学委員会2年 岩田良介

今回一泊二日という短い期間でしたが、海外研修生と共に日本文化を学べたことは私にとってとても良き経験となりました。というのも日本文化を知らない外国人に日本の伝統文化を知ってもらおうという今回の企画でしたが、彼らと日本文化を体験する中で我々日本人もまだ知らない文化がたくさんあるのだと気づけたからです。私はこの和紙作り体験で日本のものづくり文化の素晴らしさを肌で感じることができました。一枚の和紙ができるまでにいくつもの工程がありました。まず木の皮を剥ぎ、繊維を取り出すことから始まり、その繊維を棒で叩き潰し、繊維を伸ばし、細かく手で細分化しミキサーにかけて、ようやく紙をすける状態になりました。こうして手間暇かけて作った和紙は千年の間、使い続けることができるそうです。和紙が完成し、このことを職人さんが熱く語ってくれた時、私は和紙に対する何かロマンのようなものを感じました。
この職人さんの和紙作りにかける思い、日本のものづくり文化の素晴らしさは、たとえ言葉が通じなくても海外研修生にもきっと伝わったのではないかと思います。

 

アイセック立教大学委員会2年 恒松透

紙すき体験を通じて思いの変化が大きく分けて2つありました。
それらは紙すきを通じて、ものに対して、また伝統産業に対しての思いです。
ものに対しての思いということで、自分の中で”もの”の価値感がすごく変わりました。特にものが尊く大事に思えるようになったというのが率直な感想です。というのも、今回は職人さんの側で、紙すきの工程の多さ・職人さんたちの作業へのこだわり・職人さんの技術力を目の当たりにしました。たった一枚の紙を作るにあたって何十もの時間といくつもの手間がかかって紙が作られていると知ったのです。
現代には物が溢れ、むやみやたらに消費されています。そういった時代の中でものづくりの裏側を見ることができ、自分の中でものの価値やものに対する自分の姿勢を見直すきっかけになりました。
また、伝統産業が置かれている現実を知り、守り受け継いでいかなければならないという使命感を持ちました。ドキュメンタリーや雑誌で伝統産業の現実といった特集が組まれていたのを見たことがあります。そこで語られていたのは、伝統産業はビジネスにならないや後継者がいないと言った産業の継続的発展に関するものでした。
今回の体験を通じて職人さんの言葉で現実を語ってもらい、単なる事実として知っていたことを今実際に起こっている問題として再認識することができました。
原材料の供給に対して職人が不足しているなどと問題は山積しており、なによりも各フェーズにおいて横のつながりが無いのが1番の問題であるように感じました。
また、実際に紙すきを体験した身からして、伝統産業を守るという観点から若者に対して紙すきの魅力を訴求する使命を感じました。
これからはより一層ものに対する姿勢を改め、紙すき体験を通じて伝統産業の価値や魅力を理解した身として伝統産業の継続発展に寄与していきたいと思います。
お世話になった皆様に感謝申し上げます。

 

アイセック立教大学委員会3年 川筋未遊

日本文化を教えて、と言われたらどんな答えを用意しますか。茶道、生花、マンガ、アニメ、J-pop…。数多く挙げられるなか、「和紙」という答えを真っ先に出す人はなかなか少ないのではないかと思います。そして大人になるにつれ和紙に触れる機会も減っていき、その存在は日本人の中で希薄になっていっているように感じます。私も実際紙漉き体験に行くまで、多分10年以上和紙に触れることなく生活してきました。多分みんなそんなものですよね。でもそんな私達でも、外国の方に日本文化を紹介するときは和紙の紙風船はとっても役に立ちますね…。
今回の企画の題は「紙漉き体験」ですが、得たものは単に紙を漉く技術ではないように感じます。一泊二日の体験を通して、文化とはなにか、ということを改めて啓示されたような気がするのです。
私達が紙漉きを行ったその場所では、和紙は今よりもずっと使われていた時代とそう変わらない情景の中に存在しているように感じました。私達は二日間紙を漉くだけでなく、職場のある秩父の自然を感じ、近くにあるお寺の過去帳に鷹野さんの和紙が使われているのを見て(なんとその和紙は1000年持つそうです!)、作られた和紙がどのように使われるかを知ったのです。これが本来の、和紙が生活に密着していた頃の姿なのだろうなと肌で感じられました。
今、日本の伝統と言われている文化で、日本人の生活に根ざしているものはあまりありません。でも文化とは、もともと我々の生活に密着しそれ故に我々のアイデンティティーを濃く色写して残っていったものです。だからその頃のあった姿をその流れの中で知ることが本当に文化を理解するということなのではないかと思います。外国に紹介するときに紙風船を買ってくるよりも、そういうことが大事なんじゃないか。そんなことを紙漉き体験の中で考えることができました。