2/9//2008  スタッフだより

熱帯の強い陽射しの下で思うこと

■ マレーシアのボルネオ島,サバ州のラナウという山の中の町では,毎週土曜日にタムーという市が開かれ,方々から人が集まってきます.
世界遺産の山キナバル山,標高4096m
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キナバル山という標高4096mの世界遺産の山に滞在して研究をしている私はときどき、食糧の買いだしと気分転換をかねてタムーを楽しみに足を運びます.タムーでは野菜や干し魚,果物,古着などが,たくさんのテントやパラソルの下に並べられます.町によって開かれる曜日は違うようですが,ラナウの他にも、多くの町でこのような週に一度の市が開かれるようです.

 
タムーの風景
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熱帯の陽射しは日本のものに比べてとても強く,写真を撮るにも日本と同じ感覚で絞りとシャッター速度を設定すると,白く飛んでしまうという失敗をします.
「熱帯の中の絵画」という本で,印象派の絵画は熱帯の陽射しなしでは生まれなかったということを読みました.レンブラントの絵画『夜警』などのような暗い調子の絵がヨーロッパで主流であった頃,そのような画調に反発した人たちが熱帯の強い陽射しの中の明るい色調に憧れ,印象派につながったというのです.ゴーギャンの絵に「タヒチの女」というものがありますが,彼も熱帯の陽射しの元で見られる色彩に憧れた人の一人だったようです.
そんな強い陽射しの下では,タムーのパラソルの色や人々の着る衣装の色がとても鮮やかに映えて,日本で見ていたら,安っぽく見えそうなものまで,妙に風景に溶け込んで熱帯の雰囲気を醸し出します.日本では決して味わうことのできない色彩に,熱帯にいるんだという実感が湧きます.

写真に写る女の人たちが着る衣装は,色鮮やかで熱帯の陽射しの元でその美しさが際立つものです.まさにこの熱帯の地で生まれた衣装なのだろうと想像するのですが,どうやら,この土地のもともとの民族衣装というものは,そのような色鮮やかなものではないようなのです.
過去の数寄和草子に,私とは別の数寄和大津スタッフによるボルネオ島での結婚式の投稿がありました.そこに写る新しく夫婦となる二人の衣装は、黒を基調とした地味な衣装です.サバ州立博物館でも,民族衣装として展示されているものはどの時代のものも,どの地方のものも,黒を基調としたもので,意外にも地味なのです.日本の着物の方がよほど色彩豊かです.

 
食虫植物のウツボカズラ,キナバルには固有種もあります
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手元に参考にする資料もなく,想像をするしかないのですが,おそらくその違いの背景には,春夏秋冬の季節の有無や,衣服を染めるための原料の有無や発見,染料を抽出するための技術の有無,そして色を愛でる人の感性に違いがあるのではないでしょうか.日本の色はとても豊かです(数寄和大津には色辞典を置いていますので,ご来廊の折にはお手にとって御覧ください).英語で直訳しようにも,一単語では表現できない色もたくさんあり,そのことを思うと日本人の色に対する感性の繊細さにちょっとした誇りさえ感じます.季節によって身にまとう色を変え,色を求めて様々な植物を利用し、そこから色を抽出するための技術を発達させてきました.



熱帯の肌を焦がす陽射しの中でみる色は美しいです.しかし,それを見て故郷の日本でみる色を思い返したとき,日本のときに暖かい,ときにきつい,ときに薄暗い陽射しの中で調和するとても趣き深い色が思い出されるのです.
熱帯の色を知り,日本の色に愛しさを感じました.